眼鏡

「黒崎?」
 喫茶店でネクタイを緩めて一息ついたところに、突然背後から声をかけられた。
 ぎょっとして振り返ると、よく見知った顔があった。
「神志名!?」
「何だお前、その格好」
 神志名が、眉を顰めて黒崎を見た。
 カジュアルなスーツに、しゃれたフレームなしの眼鏡。
 今日の役どころはとある人材派遣会社のコンサルタントという設定だった。
「いや、これは、その」
「デートか?」
 意外な言葉に思わず固まる。
「……は?」
 その反応にこちらはいつもどおりかっちりしたスーツ姿の神志名の眉間の皺が深くなった。
「まさか『仕事』じゃないだろうな?」
「いや! そう、あの、デートで! この間知り合った女子大生に社会人だって言っちゃって……!」
 慌てて言いつくろう。こんなしどろもどろの言い訳を信じるわけがないと思ったのだが。
「お前、目が悪かったのか?」
「え?」
「眼鏡なんかかけて」
「いやこれは……」
 度は入ってない、と言う前に神志名の顔がいきなり近づいてきて、軽く眼鏡のフレームを摘み上げた。
「何だ、伊達か」
 突然のアップに心臓がバクバク言っている黒崎に気づいた様子もなく、そのまま離れていく。
「まあ、お前の童顔が少しは大人っぽく見えるな」
「童顔で悪かったな」
 拗ねた振りで顔を背けたのは、本当は赤くなった顔を見られたくないからだ。
「それで、『仕事』は終わったのか?」
「デートだっての」
 動揺していても、その程度の誘導尋問に引っかかるほど甘くはない。
「じゃあ夜はこれからか。せいぜい頑張るんだな」
「え」
 あっさりと背を向けようとする神志名に思わず焦る。
「アンタは?」
「俺は署に戻る」
「あ、そ……お仕事ご苦労様」
 もう5時だから普通の公務員なら終業時刻だが、刑事にはそんなものはないだろう。
 とはいえ、もし神志名の仕事が終わりなら夕飯くらい、と期待したことは確かだが。
 神志名が少しガッカリした黒崎に気づき足を止めた。
「……俺と会う時は、眼鏡は外してこいよ」
「何でだよ?」
「キスするのに邪魔だからな」
 誰にも聞こえない程度の小声で囁かれ、真っ赤になった黒崎が何か言い返す前に神志名は歩み去っていた。
「……っ、すいません、チョコバナナサンデーとモンブランとストロベリークレープ追加!」


 もしかしてあれはあくまで『デートだ』と言い張った黒崎に対するちょっとした意地悪だったのかもしれないと気づいたのは、レジで追加分以外の勘定は神志名が払っていったと聞かされた後だった。


*たまにはラブな2人を。(ラブかなこれ……)
しかしウチのカシクロは偶然遭遇率高いな(涙)!
そこはひとつ、本当はお互い会いたいから互いがよく行く店を覗いてしまうということで……(でも黒崎はともかく神志名がよく行く店ってどこだ)(個人的にはビリヤードできるカフェバーとか似合いそうだなーと)(絶対神志名って大学時代色々遊んでたと思う)(悪い意味じゃなくね)。


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